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yuuの一人芝居

yuuの一人芝居

戯曲 銀杏繁れる木の下で

戯曲    Qプロダクツ公演台本
 
 銀杏繁れる木の下で
        原作  銀杏繁れる木の下で  今田  東   
  脚色             吉馴  悠



          人     しずか 嫁の愚痴として語る役もあり
                悠介
                幾花
                敏則  若い頃と年とった頃 二役
                早苗  若い頃と年とった頃 二役
          所     銀杏の木がある所 
          時     戦後と現代が、非現実の時間かも知れない。

          情景    舞台には中央に銀杏の木が聳えている。その他のものはテーブルと椅子、長椅子が欲しいがそれは何かを工夫してもいい。
                 開幕前にフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」が流れている。
                 舞台効果として、適せんにその場の雰囲気を盛り上げる音楽が欲しい。それは古典でも童謡でも演歌でもいい。こころのなかに入るものを選んで流してほしい。自分史の語りの時には「マイ・ウェイ」を。
                 明りは中央、銀杏はすべてのシーンでついている事。上手と下手は過去と現在を区別しての場所を現わし、そこには演じられている場所に明りを落とすこと。また、中央にはサスが降りるように照明を施すこと。
開幕するとそこには銀杏の木が照らしだされていることだろう。その前にスポットがおりそのなかへしずかが入ってくる、銀杏を眺めていたが、ゆっくりと振り返って、しずかを演じる役者が語ること。
しずかの役者  少し愚痴らせてもらうわ。どうしてここに出てきたかと言う道のり…。義理の父が、なにを思ったのか、舞台の台本を書いてこれを公演するといい出したのがきっかけ、事の始まりなの。もともと義父は劇団を持っていて、家族を含め沢山の人に支えられ公演していたのだけど、六十歳になった時になにもかも捨て遊び人になると言って劇団を閉じたの、私はああよかった今まで厭な役ばかりやらされてストレスがたまっていたのでほっと胸をなでおろし、これからは好きなスイーツをたらふく食べられると、縛られた綱を解いて自由を謳歌したいというわけ。そんな生活を十年したの。義父はその間、世界の、日本の歴史、世界の宗教を勉強していたらしいのですが、ところが、父が何に目覚めたのか『世間の汚いものは見あきたと』と俄然美しい物語を書き始めたと言うわけ、ところで時間があたら年寄りが書いたおもちゃに付き合ってほしとお願いしていますの、嫁として…。
これから始まるものは、みなさんにとってきっと一度や二度はあったお話…。
               しずかの灯りが消えて銀杏とその前に明りが落ちてくる。
               そこには銀杏に手を合わしじっと見つめている 幾花、幼く見える。。
               人の気配を感じたのか恐る恐る振り返った。
               見つめる瞳には涙があふれているのが分かった。
幾花  ごめんなさい。こんな姿をみせてしまって・・・
悠介  ごめん、邪魔をしたようですね 
幾花  この銀杏の木には祖父の思い出が一杯にあって、一度きたかったのですけれどなかなかここに来ることが出来なくて、それが気がかりでしたの。ようやく・・・
悠介  私にも、この銀杏の木には思い出があるのです。ときどきこうして会いに来るのです
幾花  こちらの方ですか 
悠介  昔このあたりに住んでいました、子供の頃ですけれど
幾花  そうなのですか、祖父も若い頃にこのあたりに住んでいて銀杏の木との思い出がたくさんあったと書いていました
悠介  ではあっているかも知れませんね
幾花  それは、祖父は五十年も前に東京に出ていて、帰ることもなく・・・
悠介  戦後にと言う事ですね。大元駅の構内の銀杏の木はこうして年月を経ても立派に育っています。あなたのおじいさんが眺められたそのままの姿で今も…
幾花  岡山の空襲にも焼けずに残り、今もなお…
悠介  今でも沢山の人がこの銀杏を見に来ると言っています。きっと思い出があるのでしょう
幾花  見知らぬ人にぶしつけで申し訳ありませんが、お時間があれば少し御話しを聞かせてくださいますか、その事で祖父を忍びたいと思いまして
悠介  では、今はなくなられて・・・
幾花  はい、祖父はこの銀杏について書き遺していたのです。それは偶然に祖父のパソコンを開いてあるファイルを開けてみると書きこんでいたのです
               少女はそれをコピーした紙袋を抱えていた。
幾花  この銀杏を見つめていますと言葉が聴こえてくるような錯覚に陥りました。ただ夢中で聞こうとし耳を傍立てていましたが、それは祖父の声のようにも聞こえ、また、沢山の人達の声にも聞こえ、不思議な空間のなかにいて…。でも怖いという感覚はなく、なんだか心が安らぐのを感じていました
悠介  この銀杏には沢山の人が色々と心にある事を話しぶつけていますから、その人たちの木魂が返ってきたのかも知れません、また、人の世の移り変わりをじっと見ってきていますから
幾花  何時からここにあるのでしょうか
悠介  この駅舎が出来たのは明治の中頃でしょう。それから銀杏の苗が植えられて時間を経てここに、もう百二三十年は過ぎていることでしょう
幾花  そうなのですね、こうして祖父が見た銀杏を私が今見ている、時を超え今ここに立っている、親しみがわき抱きつきたい衝動を感じていました
悠介  私も何度も登りました。私の場合は抱きしめられたという実感でしたが
                少女は涙を拭いて銀杏の雄姿を見上げていました。
幾花  どこか、場所を変えて色々と御話を聞かせてもらえませんか、初めての人にこんな厚かましい事をお願いするなんて、私はどうにかなっているのでしょうか
悠介  私でよければ、私は今、倉敷に住んでいるのです。小さな喫茶店をやっていまして、何か心に引っかかるものがある時にはここに来ることが多いいのです
幾花  倉敷、そこに行ってもいいでしょうか、厚かましすぎますか、そこで沢山、銀杏の事をお聞きしてもいいでしょうか・・・
悠介  構いませんよ、私も話し合い手が欲しいと思っていた時ですから
               明りは消え、下手に明りがともると悠介と幾花、幾花は座っていて、悠介は立っている。 
幾花  静かでいい場所ですのね。ああ、すいません。おしゃべりをしていて名乗ることも忘れていました。私は硯幾花と申します
悠介  私は可能悠介です
幾花  私、これでも女子大に通っているのです。皆、高校生にしか見てくれませんが
悠介  私にもそのように見えていました、失礼でしたか
幾花  もう慣れていますから。私はおじいちゃん子でしたから。父は商社員で海外にて不慮の事故でなくなり、母の里に引き取られそこで育てられました。かわいがってもらった祖父が病に倒れて、祖母と母と三人で生活しています。
悠介  そうでしたか、私にも父の記憶はないんです、早くにどこかえいってしまったらしいから・・・
              店内には悠介が撮った写真がいたるとこるに無造作に飾られていた。
幾花  そうなのですか…。
悠介  今は母と二人で好き勝手に生きています。
幾花  お写真を…
悠介  好きで撮っています。趣味と言うか道楽と言うのか、その程度のものです
幾花  それではあの銀杏の木の・・・
              幾花は目を輝かせていた。
悠介  ありますよ。朝の、昼の、夕景の、四季のまたその変わり目の、今日も撮り行ったのですが、シャッターを切るのを忘れていました
幾花  私の所為すか
悠介  いいえ、実は銀杏を見上げる驟雨のなかの少女、何か幻想的でしたから黙って撮らせて頂きました
幾花  まあ、出来たらぜひ頂きたいですわ、祖父に見せたい、いいえ、供えたいのです
悠介  いいですよ、約束します
幾花  来てよかった、祖父が作ってくれた偶然と言えばいいのでしょうか。祖父が書いていました、あの銀杏は雄の木だと
悠介  銀杏はオスとメスがあります。だけど、なぜか人間の男性のファンが多いいのですよ
幾花  メスも、ああ、ギンナンを付ける…。そうなのですね。こう言ってはおかしいかも知れませんが、女性の私も魅せられてしまいました
悠介  それは、本当の事は女性の人達も沢山わざわざ見に来られるのです。その人たちに尋ねたことがあります。こころのわだかまりを吐きだすと胸がすっきりとすると言っていました
幾花  分かります、何か温かい腕に抱かれているようでしたから
               悠介はコーヒーを淹れて幾花の前に置いた。
幾花  いい香りですね、東京のコーヒーには香りがなくなっています。よく祖父が淹れてくれたコーヒーの香りと同じです。コーヒーにはやかましい祖父でしたから、特別に豆を取り寄せ煎って一杯ずつミキサーで粉にして淹れてくれました。ここにも祖父の匂いがあるなんて、何と言っていいか…
 幾花はそれを口に含んでにがみを味わいながら咽喉に落とした。
               悠介は銀杏の写真をテーブルの上に広げた。

                中央サスに入る初老の男、敏則の役者であること。
               このナレーションは自分が書いた物を読むと言う事なので原稿を読んでもよい。銀杏の前にスポット、そのなかで
敏則がナレーションする  ここに書くことは、人に読んでもらうという目的ではない。これは私の記憶があるうちに書きとめておきたいという目的で書く。
フランク シナトラの「マイ・ウェイ」が流れているこの部屋で書き始めようと思う。
先に書いておこう、この扉を開くかも知れない孫の幾花に読んでもいいという事を告げておこう。
書いていきたい。
                「マイ・ウェイ」がかかること。
 戦争前、私たちは満鉄に勤務する父親のその官舎に住んでいた。両親と私と妹の四人家族であった。
戦争が終わって命からがら日本に帰ってきた。それはここには筆舌し難い事ばかりで控えようと思う。引き上げて帰ってすぐに父親は国鉄に機関士として勤務をするようになった。勤務先は何度も変わり、私が小学六年の春、岡山の宇野線大元駅の隣にある官舎へと変わった。
 私の家のガラス戸を開ければ駅舎の前の銀杏の木が見えた。その時が初めて銀杏を見た。庭に降りて銀杏の下に佇んでいた。春だったからしっとりとした緑の葉をいっぱいつけていた。ひきつけられるように身をかたくして見上げていた。私はごめんねと言って一枚葉をちぎった。出会いの記念の証拠品としたかったのだ。其の葉は押し葉として大切に今も書斎の本に挟んでいる。
 その日から毎日の日課はガラス戸をあけて銀杏の木を眺めることから始まった。
 学区の中学校へ通い始めても帰ってすぐに銀杏の樹の下に行き見上げていた。なんだか活力がわいてくるような感覚があった。
 転勤の多かった家の子供は勉強では劣ることが多かった。私もその例外ではなかった。何カ月も過ぎると親しい友も増え、その学校に慣れて行った。
その間も相変わらず銀杏を眺めることが日常になっていた。私は銀杏に語りかけることが多くなっていった。日記のようにその日にあったこと、うれしかった事、腹が立ったこと、悔しかったことなどを愚痴ることがあった。無論それは皆には秘密にしていた。其の頃には銀杏は生活の一部であり家族のような存在だった。
 銀杏とともに育って行ったという事で子どもの私には宝ものであったと言えよう。
 特に夕景の銀杏の姿は私の一番の好きな景色として心に残っている。黄金に染まった葉の群れは荘厳な感じがして身が引き締まって見たのだった。蒸気を吐きながら警笛を鳴らし通り過ぎる急行列車と重なれば至福の時間であった。
 その時代には子供達が遊ぶ公園はなく、そこは遊び場として解放されていた。学校を終えて三々五々に集まり銀杏に見守られながら遊びに興じていた。
 銀杏と夕景はそれを見守っていた。
 春には華を付け、秋には紅葉する。銀杏の木には、荘厳、鎮魂、長寿と称えられる言葉がある。銀杏の誕生日は十月二十九日と十一月二十一日と決まっている。大きくなると二十メートルから三十メートルに延びて天を突くようになる。生命力が旺盛で繁殖は銀杏のオスが胞子を何十キロも飛ばしそこに命を育てる。樹齢を重ねると枝が広がり垂れて、その様は乳のようにも見えることから安産伝説にもなっている。植えて実がなるまでには時間がかかるが成長は早く、樹齢が長い事、繁殖力が強く、氷河期にも耐えて残っている。
 それらの事をなにも知らない人でも銀杏の美しさには感嘆することだろう。
銀杏は別名、公孫樹、鴨脚樹と呼ばれ、原産地は中国だと言う。日本には室町時代に伝わっている。
 私はそれを図書館で調べた。歴史と特徴を知識として持ち相対することが尊敬とか友情には欠かせないと思ったからだった。
 理解を深めることにより尚魅かれることが倍増して行った。
 しとやかさ、潔癖、清楚、純粋と言うことばがうかんでいた。
 私はその銀杏の美しさだけに心を奪われていると言うのではなく、植物、自然の意図する皆のなかに不思議な感情が芽生えていたのだ。其の中でより銀杏の存在に関わったという事だった。
 銀杏のおかげか精神的にも落ち着いて勉強にも集中がまして成績は上がっていった。
 そのころ、同じ国鉄職員の少女と顔見知りになった。彼女は少し離れている官舎にいた。
 何時ものように銀杏を見に行くと一人の中学校の制服を着た彼女が銀杏を見上げていた。背は高い方ではないが髪を二つの流れに組んで肩にたらしていた。一年生かなと私は思った。
 彼女はびっくりしたように振り向いた。清楚な感じの人だった。目が少し躊躇しているように思えた。
恥ずかしいしぐさを見せてチョコンと頭を下げた。私も軽く頭を下げて、
これからの展開はそのままの服装で言い、精神的に役を作ること。
敏則  銀杏は好きですか
早苗  前いたところの駅にも銀杏が大きくそびえていて、なんだか懐かしくて、ここに最近引っ越してきたものですから…
敏則  どちらからですか
早苗  山口県の北でした
敏則  僕も二年前に宮崎からこちらに来てこの銀杏と仲良くなりました
敏則独白  そんな会話が初めてだった。彼女は学校の帰りに毎日銀杏を見に来ていた。
               少しの間、「櫻がいの歌」が流れる。
敏則  もう学校にはなれたかな
早苗  まだ、親しい友達はいなくて、ここにきて銀杏と話をしているのです
敏則  そうだね、なかなか友達は出来なかった、僕らの家族は転勤ばかりあるから・・・
早苗  でも、何処へ行っても駅には銀杏があって・・・
敏則  その銀杏を意識し始めたのはここにきてからだよ。官舎の窓からよく見える、見守ってもらっているようなんだ
早苗  いいな、いいな、羨ましい
敏則  好きなんだ、そんなに…
早苗  うん、清潔でおしとやかで,たくましい、見ていると力が湧いてくるような・・・
敏則  君の名は
早苗  私は桑田中学校一年B組出席番号二十九の石見早苗です。紹介終わり
敏則  僕は三年A組出席番号十二番の木田敏則です。何か変ではないのかな
早苗  木田先輩と呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか
敏則  石見後輩と呼んでいいの
早苗  むろんです、なんでしたら早苗で頂いてもかまいませんが
敏則  前方よし、後方よし安全確認オーケー
早苗  発車オーライ
              私たちは笑い転げていた。機関車の真似をする。 
              「汽車汽車シュツポシュツポ」の音楽ながれる。
敏則の独白  銀杏が取り持つ縁であった。春に華が咲き、夏には枝葉を茂らせ、秋には黄金に色を変え風に舞って、あたり一面を絨毯をひきつめた模様に変えて行った。
 銀杏が育って行くように私たちは色々と話し夢を語り合っていた。
 三年生、来春の高校受験を控えて勉強をしなくてはならない時期だった。
早苗  受験勉強はオーケーですか
敏則  さあ、釜戸の口をあけて石炭を放り込んで火を付けたところという段階でまだ釜の湯は沸騰していない
早苗  それは困りましたな、特急列車に切り替えてもらわなくてはならないですね
敏則  どこも駄目だったら、鉄道学校にでも行き、機関士になり顔を煤だらけにして、親父の跡を継ぐよ
早苗  先輩、私の夢を語りましょうか、植物学者なんかどうでしょうか
敏則  ええ、大学へ行くの
早苗  そのつもりなのですが、先輩が辞めとけと言うのなら辞めます
敏則  四億五千万年の銀杏の起源までさかのぼるつもりなの
早苗  あの何回も訪れた氷河期のなかでも生き残ったその生命力の謎に迫ってみたいと思いますが
敏則  博士か、機関士と言うのは夢が小さすぎるのかもな
早苗  いいえ、夢に大きいも小さいもないと思いますが、先輩
敏則  好きな事をして銀杏のようにのびのびと暮らせたらいいかなとも思う
早苗  私は、平凡に女としての幸せを考えたりもします。好きな人と一緒になり、子供を生み、育てる、そんな一家団欒もいいかなと言う事も考えます。でも、今からそう考えるとそこで止まってしまうのではないかとも思います、だからとてつもない望みを抱いて夢を見てもいいかなと・・・
敏則  うちのおやじは何時も言ってる、夢に大きさの差はない、その夢の実現に努力する過程が大切なのだと
早苗  そうか、家庭か、家庭が壊れていたら何もかも無くなってしまう
敏則  その家庭ではなくて・・・
早苗  分かっているわ、少し息苦しいから、脱線してみただけ
敏則  銀杏は何を考えているのだろうか
早苗  何よ、それって・・・
敏則  荘厳、鎮魂、長寿
早苗  なによそれ・・・
敏則  銀杏の花言葉
早苗  そうなのだ、そういえば見ていて何か納得が出来る
敏則  聞いたけど後輩はかなり勉強が出来るのだって・・・
早苗  教室でただ聞いているだけ、最近は銀杏に魅せられて何時もポカン・・・
               間
敏則独白  勉強が出来ることで人生の勝敗は決まらない。喜びは与えることから始まる。幸せの基は自分の心の中にある。あの銀杏のようにすくすくと育つことだ。それには雨や風に耐える精神を養わなくてはならない。そこに少し勉強と言う打算が必要なものだ。勉強はその程度でいい、どんな生き方をしても悔いは残る。其の悔いが人間を成長させるものだ。悔いを喜びに変えるのは、たとえばあの銀杏のように炎天下で日蔭を作り人様に安らぎを与える思いがありゆとりなのだ。それには勉強をして真実を見極める力を養う必要がいる。これから沢山の人と出会いその事に気づけばおのずと幸せと言うものが何かを理解出来る様になる
            間  父親はそのように言って慰めてくれていた。
早苗  勉強とは真実を知ることなのだと教えられた。
敏則  煤だらけになって機関車を走らす父親も、単純な生き方のなかに人としての思いを持ち考えを構築している事を知った。父親も銀杏を眺めていたのだ。
早苗  少し気晴らしをしませんか
敏則  いいねそのはなしのった
早苗  もうすっかり葉を落として、男の荒々しさに変わっている
敏則  男の裸に例えましたか、ということは・・・
早苗  知りません見てません存じません。が、少しは興味がありますが・・・
敏則  それは今の後輩の年では当然、僕はこの銀杏にあこがれていますから・・・
早苗  ずるい、私を子供だと思っているでしょう
敏則  当然なことです。
早苗  なんで、私は女です。子供ではありません、がまだ熟していませんが…
敏則  だけど後一年もしたらどんな後輩になっているのかたのしみ・・・
早苗  はい、前方に危険物発見、急停車します
敏則  オーケーブレーキを掛けました。
早苗  ところではかどっている 
敏則  なにが・・・主語がないから分からない・・・
早苗  中学生のはかどっているとは勉強しかないでしょう
敏則  あの雲のように空を泳ぎたい、て、心境なんだ
早苗  空の雲にも色々の種類があり役割が違うと言う事、人間も同じなのだなと思うのですよ
敏則  それって慰めくれているわけなのかな
早苗  いいえ励ましているのです。積乱雲になるように頑張ってほしいのです
敏則  その積乱雲は雲でも一番地上と近いのではなかったかな
早苗  無理をしないってこと、人間にも役割があるってことです。集中力とかなにもかも解放して自然の営みを感じることが時には必要なことなのだと言う事です
敏則  つまり、今のままでいいという事なの
早苗  鉄道学校に入って機関士になることもりっぱな選択だって事、あわてて詰め込んでも済めば忘れることが多いいこと、それより好きな事を心に蓄えることの方が価値があるってことです。これは父の言葉の受け売りなのです。私が勉強ばかりするものだからそう言ってもっと遊べと言っているのです。遊ぶ時間をどのように使うかで勉強より違ったものが身につくと言う事らしいのです
敏則  思春期の後輩に青春期の僕が教えられている。つまり今いくら詰め込んでも役に立たないと言う事なのかな
早苗  でも努力する過程、あの家庭ではなく、その時間の事なのですが、結果を上回るという現実があるってことですわ
敏則  何か難しい事を言って僕を煙に巻くと言う作戦かな
早苗  分かったあ、私は一人ぼっち、遊び相手が欲しくて・・・。と言う事もありますが少し休憩の時間が必要な時もあります
敏則  親切なんだ、ところで何か僕に言いたいんだろう
早苗  分かるの・・・春になったら、私の銀杏を見てほしい、ここの銀杏は先輩の物ですが、山口の銀杏は私と共に育ったもので私の物なのです。だから、一緒に行って観てほしい
敏則  そんな事を言っていいの、心配するよ
早苗  私は何も心配していないもん。両親を説得する準備が整っているから言っているのです
敏則  それって僕には・・・
早苗  だから、プレッシャーを感じないように誘導したのです。何をしてもそんなに人間の差なんか出来ないってこと、やる時にはやるという心構えは皆持っています。そんな時間を作ってほしいと言う事ですが
敏則  発車オーライ、分かった。今から何か楽しみが湧いてきた。春か…
早苗  この列車は各駅停車です。忘れ物のなき様にお降りください。・・・新しい青葉が一杯に繁り、きっと先輩を歓迎し門出を祝ってくれますわ
              銀杏の明りだけ残して
              明りはテープと椅子のとこへ下りる。
              少しリラックスをしている感じが必要。
幾花  祖父の書いたものを持ってきました。よろしかったら読んでいただけませんか                                                   悠介  いいんですか
              幾花は封筒を渡す。
幾花  はい、きっと喜んでくれると思います。あの銀杏で出会う、偶然の奇跡を、いいえ、そうではなく運命と言えばいいのでしょうか、一期一会ではなく二人を結びつけたのかも知れません。いいえ、これは私一人の思いなのかも知れませんが…
悠介  分かりました、これを読むとより深く理解が出来ると言う事なのですね
幾花  はい、一通り目を通したのですが、きっと・・・
悠介  これからどうしますか、予定はあるのですか
幾花  ただ夢中で、一刻も早く祖父の思い出の銀杏が見たくて来たものですから、なにも、ごめんなさい御迷惑でしょうか
悠介  倉敷は初めての様なので、案内させてください。これも何かの縁と言うものでしょう。倉敷のいい思い出を東京に持って帰ってほしいということもありますので…
幾花  ええ・・・( 少し驚いて)
カタンカタンと機の音がする。
悠介  カタンカタンと言う音が聞こえますか、隣に母の仕事場があって、そこで織りものをしています。其の音なのです。母と一緒にどこかで夕食をとりますか
幾花  ええ、そこまで…。いいのでしょうか、あまえさせてもらっても・・・それではあんまり・・・
悠介  一期一会ではないと言ったのはあなたですよ。母も僕も人と出会う事をなにより大切にして生きてきましたから、何も気兼ねなく甘えてください
幾花  厚かましさにもっと甘えさせてもらえれば、祖母と母も一緒に連れてくればよかったと思っています 
悠介  僕の母もそれを歓迎するでしょう。人が大好きな人ですから。一日中機の前で寡黙に縦糸に横糸の竿を流しているのですから、そんな機会を欲しがっていますから…
幾花  お会いしたい、ああなんと、今日お会いしたばっかりなのに、こんなことを、笑わないでください、本当の私は世間知らずの物静かな女性なのに…
悠介  分かっています、これでも世間を見つめて生きていますから。少し待ってください、母に用意をさせますから
 そう言って悠介は奥に入って行った。
                幾花は腰掛から離れて無造作に飾られた写真に見入っていた。一枚の写真の前に佇み食い入るように凝視していた。ここはパァホーマンスで良い。
                この時に明りが落ちて、長椅子に明りが下りる。
    
早苗  はかどっていますか、勉強なんか飛んでくる問題をラケットで返す、そんなもんでいいのではないかしら…
敏則  はかどると言う単語は僕にはないらしい…
早苗  その言葉は切羽詰まったドン尻の意味でしょうか、それとも余裕綽々と言う事なのでしょうか
敏則  何か心に引っかかって集中できない、という状態かな
早苗  それはこの私に関係がありますか
敏則  長門の町は寒かったのかな
早苗  裁判長、被告弁護人は証人に対して誘導尋問をしています
敏則  銀杏になりたいと思う時がある
早苗  私の質問には正確にお答えください
敏則  はいはい、時に感じては思い出して、後輩の脳みそを借りたいと思う事もある・・・
早苗  裁判長本件とは無関係な発言です、撤回を・・・
敏則  言わせたいんだ、はい、後輩の明るい優しさに・・・
早苗  尋問を終わります…ああ、つかれる・・・長門の件は、それゃあ、日本海の海風が吹き付けていて、でも私はその寒さが好きだった。寒かったけれど心をしゃんとさせてくれ、そんな中色々と考えることができたから・・・
敏則  後輩は強いね、どんな境涯にも負ける事はないだろうね
早苗  今両親をどのように説得すべきか、結論を出すべきかどうか…
敏則  ほう、そんなこともあるんだ
早苗  笑ってる、おかしかったらどうぞ
敏則  今日は何かあったの…
早苗  今日だけでなく毎日です、・・・少し早いかもしれないけど、将来の事、これから先輩とどのように付き合えばいいのかとか、その事を両親に相談すべきなのかとか…
敏則  そんなこと、まだ中一には早くない
早苗  私、真剣なのですけど
敏則  それって、乙女の感傷なの
早苗  真剣に聞いてください。私は機関士の嫁になりたいの。それを両親は許してくれるかと言う問題なの
敏則  て、ことは・・・
早苗  馬鹿、そう、全部言わさないで・・・
敏則  告白なの
早苗  そう、恥をしのんでの告白の予行練習。分かって、私の気持ちを
敏則  それに僕はどのように応えればいいのかな
早苗  被告人に反省を求めます。今日から、私を機関士の嫁にする事を考えてください
敏則  いいの、それで
               後輩は笑って、
早苗  このように事を言ってみたかったの。びっくりした…これは先輩をリラックスさせるため…と言うよりプレッシャーなのかな…
敏則  やってくれたね。これは一つの願望なのだが、あるかわいい女の子がいて、その子を嫁にして幸せな家庭を作り子供を育ててと言う夢を見ることもあった。その子がもっと大きくなったら結婚を申し込むことも考えていた。だが、まだこれから色々としなくてはならないし・・・と言う夢は何時も持っていた
早苗  なんだ、また、冗談を言って
敏則  ああ、春にはどんな夢が咲くのだろうか…
早苗  馬鹿、いいところなのに
敏則  銀杏がいっぱいに花を付けて、雀たちがそのなかで騒ぎを回って、僕も花をさかせていくけれど・・・いっとくけど機関士にはならないよ。勉強しながら考えていたんだ、映画の仕事がしたいと・・・
早苗  ああ、大きい夢だ。私は先輩が作ったその映画を何回も何回も見ることにする
敏則  ごめん、それまで待っていて欲しい
早苗  待つ待つ、決まってるじゃないの。私は機関士の・・・それでもよかったのに…分かってくれていたんだ、私の気持ち、少し早いかも知れないけれどこの銀杏に誓ってほしいな。ここに転勤をした両親に感謝したいわ
敏則  いいよ。出会い、後輩に励まされ、友情と尊敬が生まれた事をこの銀杏に誓います
 早苗  やったー。私も誓います。先輩の言った通りに従います。二人は銀杏のようにすくすくと育つように成長し立派な成人になって幸せになります
                笑いながら見つめあった。
                銀杏が赤く染まる。
 
 敏則の独白  日が巡り春が来た。
私は普通科高校へ進学が決まった。 国鉄家族に与えられていた半額の家族切符を手にして後輩の育った長門への銀杏見物へ出かけたのだった。春の日差しはあくまで優しく二人を包んでくれていた。
 そこが歌人の千葉みすずの故郷であることを知った。
 後輩が見続けていた銀杏は海辺に聳えていて日本海に沈む太陽が真っ赤に染めて荘厳な感じを見せていた。それはかなしいほど美しかった。
敏則  早苗、これが、自然が作りだした偉大な芸術なのだ
早苗  え、今、早苗って言った
敏則  ああ言った。この夕日は二人のものだ、二人だけのものだ
早苗  そうよ、これは敏則と早苗の夕日だ
               二人は沈みゆき海に溶け込んでいく夕焼けをじっと見つめていた。
二人の灯りが落ちて、しずかが出てきて
               テーブルに明りが降りる。
しずか  こんな別嬪さんを何処で釣り上げて来たの
幾花  申し訳ありません、今日出会ってここまで付いてきて、はしたない事は重々承知しています。こんな事は初めてで私も戸惑っています。厚かましい行いはお許しください
しずか   この人がこんなきれいな人を紹介するから、こちらも戸惑って、何かよからぬ事をたくらんでと思ったの。だってね、この人が今まで紹介した人達はおかしな人ばかりだったから、絵描き、物書き、演劇、詩人、皆、半端な崩れだったの。だからびっくりしたのもある。と言う私の友達もおかしな連中だけどね
幾花  ひとつお聞きしたいのですが、崩れとは…
しずか  半端者と言う事、それぞれがそれぞれのしたいことにのめり込み過ぎてまるで結果が現われない、また、その結果など最初から目的ではないと言う厄介な人達の事なの
幾花  それは・・・ 
しずか  私は常にこの人に言ってきたの、どのような生き方をしても構わないけれど、夢のない生き方は絶対にするな、また、夢のない人とは付き合うなと。今少し後悔しているの、集まる連中は夢だけは持っているけれど実現に努力が少ない、獏の様な人達ばかりになっている事だったの。そんな不安な時に幾花さんを紹介されて、少し昂奮しているってとこなのかな
幾花  分かります、いいえ、分かりたいと思っています
悠介  この人の話はダムの堰が外れたように流れ出すから、このへんで行こうか
しずか  それはそうと、幾花さん、倉敷で変な母子に拉致されている、て連絡しなくてはいけないのではないかしら
幾花  そうでした。すっかり忘れていて…
                幾花は携帯で東京の母に電話をした。通話の途中で、
しずか  変わろうか、変わって
と言って携帯をしずかが取った。
しずか  あの・・・銀杏の木の下で、衝突、ああいいえ、話が弾んで今倉敷に来ています。私は倉敷織りの職人の可能しずかと申します。息子は悠介といいまして風来坊、ああいいえ、昔は医者をしていまして今は小さな喫茶店をやっております。これは御安心していただくための口上、いいえ、いいわけですが、怪しいものではございません。大切にお預かりをさせて頂きますのでご了承ください
                其の後少しのやりとりがあって幾花に変わった。
幾花  はい、はい、分かりました」
             悠介が倉敷の案内を話す スポットは悠介一人   
悠介が語る  「今橋辺りで目と目が合って、中橋渡って二人の仲は、そぞろ歩いて高砂橋へ」
現在、倉敷を流れる倉敷川に架かる三つの石橋を唄ったものである。
今や昔、江戸時代備中で栄えた商人の村の名残を残す倉敷を、観光として訪れる人は後を絶たない。
また「チボリ公園」の開園でより多くの人が足を向けるようになっていた。和洋のバランスがこの地にあった。が、今はそのチボリも経営不振で閉園をし、市民の公園や商業施設に変わった。

静寂の闇が朝焼けの中に溶け込むと、浮かび上がってくる向山。白い靄のかかった家並みに挟まれた汐入り川の流れ。川面には柳がぼんやりと影を映し、露の雫がそれを揺らしている。常夜灯が明け行く中を小さな灯りをおとしている。北にある小高い鶴形山の観竜寺から明け六の鐘が鳴りひびき風の中へ拡がる。黒く濡れた石畳が左右に延びて太鼓橋を繋ぎ、細い路地が商家の戸口を結んでいる。屋根瓦がキラキラと明かりを跳ね返しながら、緑から青、透明の景色へと色を変えて村は日々の暮らしを始める。瓦と瓦とを漆喰で貼りつけた滑子壁、江戸職人の精緻な業の格子戸、流れに沿って建てられた蔵屋敷。その下の石垣を洗う汐入り川の波の華。
倉敷村の風情をこんな形容で語られる。

               元の明りに戻り、史観の経過を考えること。
しずか  この美しい自然を愚かにも人間は壊してしまった。海をまたいであんな大きな橋を架けるなんて、私には自然を冒涜しているとしか思えない。私は瀬戸大橋を愚か橋と思っている。自然が作った景観に人間が挑んでも、その美しさより優れた美など作れるものではない。その傲岸な考えが人間を絶滅に向かわせている…ごめんなさい、独り言、心の叫び・・・(そう言って幾花に)
ええ二人は大元駅の前のあの銀杏の木で出会ったの、そうなの。つまらない話だけど、東京の学校を終えてこの人の父親を連れて帰ったの、両親に挨拶したらしかられて、家出して住んでいたことがある。銀杏には毎日あっていたわ。
この子が生まれてその木と共に成長していった。この人の父親は岩石に取りつかれていて、よく世界の石を調べに飛び回っていたわ。私はその資金集めに働いた。この人の親は地球の生成の研究をしていたの。この子が中学校のときに、出て行ったきり帰らなくなった、世界の何処で何があったのかは分からない。私はこの子を連れて倉敷に帰った。あの古い家に住む事を許されて、今も時折あの人の事を思い出すだけ、あきらめたくないけどこの現実を否定できないことも、そんな日々のなかで自然に現実を受け付けるようになった。私は伝統の倉敷織りの中に色々な人の思いを織りこんでいるの。この子は医者になったけれどそんな人さまの命を弄ぶことの出来る子ではないことが分かっていたけれど反対はしなかった。人間は自然の中で生きて死んでいく、その事に気づいたのか、総てを捨てて今があるってこと。ごめんね。これは愚痴でなく抗議なの、そのように捉えてね。少し長かったかしら、何時も機の前で人と話すこともないから、人に会うとうれしくて話してしまう癖、悪かったと何時も後悔…
幾花  ありがとうございます。何もかも新鮮で、その驚きで聞かせて頂きました。悠介さんにも言ったんですけれど祖母と母も連れてくればよかったと思っています。こんな素敵なことにぜひ参加させたいと思っての事です。こんなに感動したのは初めて、何か夢を見ているような感じです。厚かましくてすいません
悠介  お袋が話し出したら止まりませんよ。真剣に聞く人には全く熱弁を機関銃のように打ちまくりますから。おふくろさん、もう弾きれにしない
しずか  そうね、ごめんね、何時もこの人の連れに散々出来もしない夢の相手をさせられるものだから。ところで私の織った倉敷織りを見てみたいと思わない
悠介  おふくろさん、押し付けたら駄目だよ
幾花  いいえ、私も見せていただきたいと思っていました
しずか  幾花さん、ありがとうね。久しぶりにまっとうな人間にあったという気分、今日はいい日ね、感謝しなくては。さあ案内するわ
               二人は退場する。
               瀬戸大橋の上にライトの流れが続いていた。ここに工夫がいる。
 悠介  この世の中に何が起こっても不思議ではないが、何かのきっかけで生まれたり消えて行ったりする。人間に必要なのはロマン、それが即ち夢をはぐくんでくれるという事なのか…ああ、もう三十、何をさまよっているのか、父がなぜ石に拘ったのか、私はこれからどのような絵を描けばいいのか、そのきっかけは、銀杏が…。
                明りが落ちて、長椅子のところに
                書いたものを敏則が読みあげて行く。
敏則の独白  私は忙しかった。入学式、学級分け、部活、あわただしく過ぎていた。体を鍛えるために剣道部に入った。事業が終わると部室できかえ、武具をつけ竹刀を持って運動場を何回も走らされ、体育館に帰るとうさぎ跳びと言う過酷な訓練が待っていて、それから素振りの形どりが待っている。帰るのがやっとで着替えもせずに横になりうた種をして体を休めるのが日課だった。
早苗  余裕ですか、伸びているのですか、大変にお疲れの様子ですが…
敏則  体がしびれているんだ、動けない
早苗  鍛練と言うのはそんなものです。体の極限まで挑戦して、その繰り返しでさらに鍛える。それが武道の精神を作るものです
敏則  今日は勘弁してほしい
早苗  タートオーケー、はいカット
敏則  動けない
早苗  これからの人生を考えると今鍛えてなくては使い物にならないでしょう
敏則  早苗によって心はいやされるが、足腰は効かない
早苗  それは心だけでなく足腰の分野に治療をしてほしいという事ですか
敏則  すまんがたのみたい
早苗  これでも私は乙女です、男性の肌に触れると言う事は大変な勇気と決断がいる事ですが…
敏則  そこを何とか
早苗  こう見えても私は十四歳の中二の女性です。それをしてほしいのなら、この前のように銀杏の木に二人の誓いをしてきてからにしてください
敏則  そんなこと、早苗の育った長門の夕日に向かって叫んだ事を銀杏に叫んだ
早苗  と言う事はあの夕陽は敏則と早苗のものだと言ったのですね
敏則  そうだ
早苗  なにの下心もなくということでしょうか
敏則  あるわけはない
早苗  と言う事は下心を持っているが隠しているという事になりませんか
敏則  そんな不純な考えはない・・・
早苗  と言う事は私に魅力がないという事になり侮辱をしているという事になりますが
敏則  どうしろと言うの
早苗  降参したといいなさい。足をもんであげますから
敏則  それは乙女の心を傷つけるのではないの
早苗  いいえ、正当に行為です
敏則  ええ、いいの
早苗  スケベーな考えは許しません、が、これは治療と言うのなら別なことです
敏則  なんだかよくなってきた
早苗  逃げてはいけません、施術はいたします、が、・・・ああ、疲れる、これも敏君が映画監督になるといい出したからなの
敏則  それと何かつながるの
早苗  だってそうでしょう、機関士の妻になるのなら今までの勉強でも良かったけれど、映画監督の嫁になると言う事とは少し違わない
敏則  いいよ、今のままで
唱え  だめ、二人でパーティーなどに出席しなくてはならない時もある事でしょうし、その時のマナーをとか、付き合う人達が少しわがままな人が多くなりとか、その準備が大変なの
敏則  僕の進路が早苗に迷惑をかけているというわけ
早苗  それに監督はどのような料理が向いているのかとか、健康管理は嫁の役割とか・・・それよりなにより、なによりきれいな女優さんたちと仕事をするのだから浮気をされる可能性が沢山ある、そのためにはその人たちに負けない魅力的な女性になっていなくてはならないとか・・・
敏則  今日はおかしいよ、変だ
早苗  私は賢婦を目指しているの、私がきれいになればうれしいでしょう
敏則  今のままでもいいよ
早苗  その考えは私を蔑視し、向上心を阻害するものです・・・私は機関士の妻でもよかったのに、敏君のそっくりの子を生んで幸せな家庭を作る事、それが女性の幸せだと思っていたのに・・・それを否定する事って人権を侵害しているとは思わないのですか
敏則  今の早苗はかわいいし、頭は良いし・・・
早苗  今の私の変化には気がついていないでしょう、敏君がチラチラ見ているこの胸だって大きくなっているし・・・
敏則  ええ・・・
早苗  知っているの、それって嬉しいことなのだよ、心配してみてくれるのじゃなく、女性として見られるって・・・
敏則  ごめん・・・うれしいんだ
早苗  女性の心も知らずに脚本が書けるのでしようか、そのためにはお手伝いをする心の整理もしなくてはならないし、見たい時には見たいとはっきりと言って
敏則  そんなに早苗を追いこんでいたとは考えていなかったよ、でも、そこまで考えてくれてるってことはうれしいような・・・
早苗  あの出会いから一年、私は成長した、胸ばかりではなく、世のなかの動きもしっかりと見てきました、男性の生理も、女性の生理も見てきたの、それもこれも敏君の役に立ちたいと言う事なの。もう大丈夫、敏君の要求には総て応えられると思うの・・・。
ああ、やはり今日の私はおかしい、イライラしている、これは女性の生理なのかも知れない。足を出して、揉んであげるから」
敏則  もういいよ
早苗  だめ、一度言った事は守ってください、私は揉んで楽になって貰いたいの、これを拒否すると言う事は私の親切を無視し拒否することになるの。それは女性を侮辱することになるのですよ。…何ちゃって、私も敏君の体に触りたい言う要求があるってこと、もう一年になって成長しているのに手も握ってくれない、私に魅力がないのかと心配する気持ちを忘れているってこと…
敏則  ごめん、スケベー心は男子しかないと思っていて、嫌がられるのじゃないかと…
早苗  女心も男心も分からなくて映画を作れると思っていたの、女性は次の時代に遺伝子を遺すために男性より性欲は強いものなの、心の繋がりだけではなく・・・ああ、どうかしている・・・私の中の女が叫んでる、これは理性では抑えられない部分もあり・・・。だからと言って敏君が行動を起こしてくれないと何も起こらないと言う側面を持っている、女は誘惑の眼差しを向けるだけ、そこで男がむらむらとして…。もう、中二になるのじゃなかった、教室ではこんな話ばっか…。だけどこれは大人になる重要な過程なのだと理解している。分かる、分かっていますか…女の子のこうした悩みが・・・
敏則  ああ、なんとなく
早苗  女の方が早くそこにたどり着くのよ。・・・これも勉強ね。たまにはいいでしょう、だからって私は敏君といるだけで満足なの、こうしてなにもかも言える二人で何時までもいたいと言う事なの
敏則  考えてみる、本能を大切にして、制御する理性を育てることも大切だと言う事は分かった」
早苗  だったら、私の手を握って見て、そして、変化を感じてみて教えてほしいな
                明りが消えて、敏則だけ
 敏則独白  夏休みには家族切符で大船撮影所に見学に行ったり、京都の太秦へ撮影を見に行ったり二人の時間を楽しいものにしたのだった。
 木下恵介監督の「野菊のごとき君なりき」を二人で見て泣いた。「風と共に去りぬ」の壮大な仕組みと波乱万丈なストリーには驚愕し、「ローマの休日」の愛の行方には何が必要なのかを教えられた。
 毎日銀杏を眺め何かを感じ、勉強と剣道と早苗との楽しい日々のなかで目的に向かって進んでいた。
 そんな中、早苗の成長は私を戸惑わせることがあったが、それも楽しく見つめていた。ますます女らしくなり美しく輝いていた。
 早苗の口癖は、
早苗の声  私は敏君のために大きく育ち、勉強をして教養を深め、輝いている女になる、それが私の人生なの
二人の仲は手をつなぐだけでそれいがには発展しなかった。それは二人の会話ですれすれのところまで話が及んでも、
「私と結婚してからにして」と言う事で占められていた。
 暇を見つけては家族切符で遠出をして過ごした。そのほかの時間は映画の観賞だった。
そんな日々を過ごして、私は希望する大学に合格した。
そのころ、大学の学生寮に入るか、県人会が組織する学生向けの下宿もあったが、私は父の国鉄仲間の家で生活をした。父の顔は煤炭まみになり学費を送り続けてくれた。アルバイトで経済発展する東京の土地は掘り起こされていたのでスコップを握りモッコを担いで足らずを賄っていた。
早苗からは毎日手紙が寄せられていた。その文言のなかには私の事だけを考えてほしいという事が書かれていた。早苗は私の跡を追うように同じ大学へ入ってきて、銀杏並木のキャンパスを歩いたものだった。二人で将来の事を語り明かす日々が続いていた。そんな変わらない日々が過ぎていく中で、私は早苗を守り幸せにすることを誓った。其の誓いは二人であの出会いをくれた銀杏を見に帰った時だった。
早苗の声  純愛ごっこもいいね、何時までも新鮮さをなくさない。愛は錯覚から生まれると言うけど、私の愛は真実なもの、真実は永遠に変わらない。言っとくけれど私が欲しくなったらそう言って、心の準備だけは出来ているから
 早苗は平然と言ったがそれは本心ではなく、誓いの言葉に対する責任のとり方であったろうと思った。
 私に征服欲がなかったわけではなかったが、その事で何かが変わることの方が怖かった。
銀杏はその真実を見せるようにすくすくと大きくそびえていた。
高校と大学では剣道を続けていたその甲斐があって過酷な労働を強いられる映画会社に勤めることになった。
脚本部で毎日毎日プロットを書きなぐる日々であった。早苗は教師として故郷で教鞭をとることになった。一緒がいいと言ったが国鉄職員の家族が大学まで進ませると言う経済的な環境はまだ整備されていなかった。両親の傍で暮らすことが今まで育ててくれた謝恩の意味もあって心を私の傍において帰郷して行った。
二人はわかれて生活をする事になったが、その方が自己確立には役に立った。
               明りかせ落ちて、
               テーブルの灯りが下りる。
               しずかと幾花がなにを話しているのか、笑い声が続いていた。
 悠介の独白  趣味と道楽でそこに夢があるのか、母の言う夢のない男になっているのではないのか。医師を辞めるときにもなにも言わず、「いいのではない」と言っただけで喫茶店を開く時にも、「夢のたまり場にしなさい」と言っただけだった。この古い家と遺産があって暮らしに困らない生活の中に、なにも生産性のない生き方にロマンがあるのかと言う疑問がわいていた事は確かだった。時の流れの中の一瞬を切り撮ると言うすカメラに興味を持ったのは、時間、その不確かな条理に対して興味を持ったのだった、一秒、いや万分の一のずれが求めていたものが撮れないと言う緊迫感に酔うこともあった。喫茶店を留守にする時には鍵のある場所を知らせていて自分で淹れて飲んでくれと言っていた。医師になれなかったのは人間としての死生観、人は死ぬものだと言う諦観がなく死を恐れていたからなのかも知れないと思う。また命を弄ぶ現代の医療に不満があったことも確かであった。「暗闇のなかに見なくてはならない物がある」そう哲学的に言った人もいた。極め付きは、
「人生に絶望したら恋愛をしろ」だった。
 様々な心が交錯していて考えがまとまらなかった。
 なぜあの銀杏に拘ったのか、銀杏を何時も見て育っていた。同じように大きく育った。実は銀杏に父の影を見ていたのではないのか、この地球に生物が生まれ、隕石の衝突により雨が続き、海が出来、地域変動でひっくり返る、その生物は炭酸ガスを餌にして酸素を吐き出して、自らが住みよい環境を作った。酸素は太陽の光と交合してオゾンと言う幕を作りより生物に取って住みよい環境を作りだした。其の地球の生成に、化石として残るものからより正確に確認しようとした父のロマンは果てしなく大きなものに今は思えるのだった。では自分には何がある、なにをすればいいのか。
「人は山に登り天と地の稜線を見つめ続けて人間とは人間とはと問い続けた」
「深い闇を見つめ続けて生きる意味を問い続けた」
「定めと言う流れがあるとしたら、流される事を選ぶか自らが流れる事を選ぶか、人間はその選択すらできていない」
「まず愛せ、愛されることとそれが同義語であることに気がついた時にその愛は成就するものだ」
「なにをどのように生きても無駄と言う事はない、無駄と思った時には大いなる錯覚のなかにいることになる」そんな言葉が逡巡していた。
 悠介は冷めたコーヒーを口に含んだ、なに、という感覚を持った。今までの味ではないように思えた。
心に変化が生まれていることに気がついたのだ。
 悠介は現像した銀杏の前にたたずむ幾花の存在を改めと思った。
た人には宿泊を勧めていたのでそう思った。
             明りが落ちて、
 しずか  なにを悩んでいるの、あなたの父親と私は絶望のなかにいて恋をした。ね、そんなことを幾花さんと話して盛りあがったの・・・息子の心も読めない母親だと思っているでしょう。そう思われている方が楽だけど、私は縦糸を男にし横糸を女にして仕事をしているの、だから分かることもある。そんな時救ってくれるのが愛と言う心の動きなの。愛することを知らない人にロマンなんか微笑まない、さあどうする…」
「と言っても誰でもいいと言うわけにはいかないし…
情けないわね。今日雨の中で銀杏という仲人がいてあなたと幾花さんが出会ったという偶然は奇跡なの、その奇跡に掛けてみるのも男のロマンだと言っている。恋愛は双方の錯覚から始まることが多いいけれど、こんな奇跡は、あなたの父が言っていた隕石の衝突と同じでめったにあるものじゃない。さあ、考えてみよう、医師の国家試験より難しい事は確かかもしれないけれど…
悠介  僕だけの気持でそれはかなう事ではないことだし…
しずか  幾花さんとは話したわ、最近の女性としては申し分なし、後はあなたがどう仕掛けるかね
幾花  私もお母様の言う事には納得が出来ます、なぜあそこで悠介さんに会えたのかは、偶然ではなく祖父から繋がっているのです
悠介  ええ、それはどういう…
                幾花はカウンターの壁にかかる一枚の写真を指さしていた。それは何年か前にあの銀杏を撮ったものだった。
幾花  よく見てください、銀杏の影に一人の歳をとった人が見えませんか
悠介  ええ、気がつきませんでしたがそう言えは映っています
幾花  それが祖父なのです。亡くなる前にそこを訪れているのです。何かの因縁を感じられませんか
しずか  はい、そこまで、よく考えて解答してください。正解は二人の心の中にあります・・・言っとくけれど、幾花さんと一緒に東京へ行く約束をしたのよ。後は頼んだわよ
悠介  ご迷惑ではありませんでしたか、何時もああなんです。仕切りたがりやと言うのでしょうか・・・
幾花  いいえ、私の住む世界とは違いますが、言葉が私の心に突き刺さってきました。それは真実を述べられているからなのです。とても新鮮なものを感じます・・・」
悠介  熱いものでも淹れましょうか
幾花  はい、いただきます、許してくださいましたらお母さんを東京へお招きしたいと思いまして
悠介  あの人はもう行く気です。節度は十分持っていますから心配はしていません、だけど、人間が大好きで気に入った人には喋りまくりますから
幾花  明るくて、機知に富んでいて、心が広くて、羨ましいです。素晴らしいお母さんですね
悠介  この町で育って、東京の大学へ通って、アメリカに留学して、海外派遣の仕事でインドへ、そこで父と知り合い、父を連れてここに帰ってきて、勘当同然になって、大元駅に近いところで生活をし、私が生まれました。辛いことやかなしいことも沢山あったことでしょうが、そんな事を気にする人ではありませんでした。むしろその挑戦を受けて立ってきた人でした。私が生まれて何年か後に勘当が解かれて倉敷に帰ったのは、父が行方不明になってからでした。帰ってすぐになにを思ったのか納戸においていた機織り機を出して見よう見まねで織り始めていました。いつの間にか倉敷織りのしずかさんと言うほどの人になっていました。不思議な方です。私はそんな母に育てられ人は自由に生きてこそ歴史が作れるのだと教えられました。医師が私に向いていない事は承知でも止めませんでした。帰ってくる事を信じていたようでした。強い人です、温かい人です、あの人の子供であることが誇りになっていました。お聞きの通り、夢のない人間にはなるな、それが私への躾でそのほか何をしても自由に遊ばせてくれました
幾花  お母さんも言っていました、何もないけれど自慢は悠介さんだと
悠介  幾花さんに売り込んだのでしょう、それは手前味噌として聴きとってください
幾花  いいえ、おふたりの呼吸、言葉の奥にある想いからして、羨ましく感じました
悠介  そのように思ってくださいますか、母も喜ぶでしょう
幾花  あのこの話は私の一方的なものなのですが、お母さんと話をしていて、迷惑だと思われたら断ってくださってもいいのですが、もう決めたのです。大学を辞めてお母さんの弟子になりたいとお願いをしたのです。合格を頂きまして善は急げと言う事で東京へと言う事になりました
悠介  そんな人なのです、本当にいいのですか
幾花  はい、祖母と母を説得します。お母さんは祖母も母も倉敷にくればいいと言ってくれています
悠介  相思相愛ということですか、私は母には逆らえません
               幾花はコーヒーを口に運び一口飲んで、
幾花  おいしい
悠介  私も何時もの味でない味覚を感じたのですよ
              明りが落ちる。
敏則の独白、  脚本部には十人くらいの部員がいた。それぞれがプロット(テーマとすじがき )を原稿用紙何枚に書いて提出、それは審査されて通ると、脚本家が脚本に書き、それを企画会議で検討されて、映画を撮るかどうかが決まる。監督が決まり、プロデューサーと配役を決め、本格的に動き出す。物語に必要な場所を設定するために事前にロケハンが行われ撮影が始まるのだ。
 私も自分のプロットの時には助監督として参加してどのように映画が作られるかを学ぶことになる。役者の演技については監督が指図し、エキストラの配置、動きは助監督が付ける。カメラ、録音、美術、着付け、照明、大道具、小道具、車両、雑用、総勢百数十人以上が一つのものを制作するために心を一つにする。ここに集まる人達は映画が大好きという人達の集団なのだ。
 私も何回も助監督として現場を経験した。そんな毎日は疲れなど感じないほどの情熱にあふれていた。
 プロットの採用が多くなるにつれ脚本を書くように指示された。
 その忙しいなか早苗から届く手紙に変化が現れ出していた。気になったがその事に触れずに元気で頑張ってほしいと返す日々だった。
 そのころ、篠田正浩監督と岩下志麻の結婚が報じられ、大島渚と小山明子、吉田喜重と岡田茉利子の結婚と、新進気鋭の監督と大女優の婚儀が大題的に報じられていた。
 そんなある夜、ロケを済まして帰ったら社宅の前に早苗がうずくまっていた。
 早苗は私に気づくと立ちあがってぶつかるように抱きついてきた。
敏則  どうしたの、連絡をくれれば・・・
早苗  助けて、私、壊れてしまいそう
敏則  とにかく部屋に入ろう
私は早苗を部屋に入れ食卓を囲んだ。お茶を出すとそれを一気に飲み干した。
敏則  どうしたの、何があったの
早苗  もういや、こんなみじめな、辛さには耐えられない。このままだったら精神も体も壊れてしまう
 早苗は両の手で顔を覆って泣きだした。
敏則  なにを心配しているんだ、そんなに不安なのかな、僕は君にも銀杏にも誓った。それは生半可なものではない。監督と女優が結婚してその事で悩んでいた事は手紙の中でうすうす感じていた。が、僕には早苗しか目に入らない。誓いを破り約束を反故にするそんな生き方は出来ない。そんな恥知らずではない。あの夕陽に向かって叫んだ、敏則と早苗のものだと言ったことも大切にしている。あの時の夕焼けのように早苗の灯りは永遠なものとして、それを支えとして暮らし、早く迎えに行くことばかり考えていた
 早苗は涙を手で払いながら立ちあがって私の背中をどんどんと叩きながら、
早苗  そんなに私の事を愛してくれるのならなぜ私を抱いてくれないの、何でそんなに優しいの・・・もうあの約束は私が破る、もう、私の生理がもたない。私を愛しているなら壊れる前に助けて
敏則  さみしい想いをさせてごめん、ここにいてくれていい。だが、けじめだけは付けさせてほしい、ロケもあと何日かで終わるから、それから一度帰ろう。
両親に報告して、銀杏にも話して許してもらおう」
 早苗の泣き声が大きくなっていった。
早苗  信じなかったわけではないの、だけど、不安だった。其の思いで自分を追い詰めていた。敏君に準備が出来ていると誘っても抱いてくれなかった、だから余計に悩んだ。愛してないのだと思い毎晩泣いていた。楽しかった思い出を浮かべてなお涙があふれた。・・・ごめん、私の愛が足らなかった、敏君の言葉を信じる愛が薄れていた。そのために毎日毎日手紙を書いた。写真を抱いて寝た。もう駄目、毎日一緒にいたい。あの頃毎日会いたくて邪魔をしていた。・・・来てよかった、やはり敏君の顔が毎日見たい。話したい。・・・行って来い、と見かねた父が切符をくれたの…
敏則  僕は早苗が大切だから汚したくなかった。だが、それが早苗には負担になっていた事を今思う。早苗にそこまで言わせた責任は僕にある。国鉄マンはお客さんを安全に目的地に運ぶために石炭を釜に投げ入れる、早苗と僕のレールはこれから二人の幸せのために敷かれている、脱線は絶対してはならない、それが国鉄マンの家族の思いだと思っている
早苗  敏君が成長しているのに、なぜ私は立ち止まっていたの。もう離れたくない、一緒に暮らして私の手を引いて育ててください
敏則  分かった、帰ってその話を付けよう。待たせてごめんね
早苗  ありがとう、こんな私をそこまで…。私も敏君を応援したい、同じ思いで一緒に生きたい。・・・
よかった…安心したら何かお腹がすいてきた
敏則  早苗らしくなった
 二人で会食した。黙々と早苗は食べながら何時もの表情に戻っていた。
 私の脚本が企画会議で通り映画化が決まった。其の準備の前に二人は銀杏が聳える場所に立っていた。両家の祝福を受けて結婚が決まった報告をするためだった。
                明りが落ち テーブルのところに明り               

悠介の独白  母と幾花が東京に行ったが、その夜に母から電話がかかった。
しずか  話はついた、賛成してもらった。一週間ほどあそんでかえる
 まるで昔の電報の様なものだった。母らしいと思った。話の内容と何がどう決まったのかも話さなかった。
 今日のコーヒーも美味しかった、その原因が幾花にある事を知っていた。
 さて、これからどうする、今のままのように気ままに生活をするわけにはいかなくなる。来年は三十だ、夢の実現に前向きに取り組まなくてはならないと思った。がさて自分の夢は何か、考えなくてはならない。遺されている財産だけで暮らすには夢がなさすぎる。医師に戻ろうか、趣味と道楽のカメラを職業とするか、今の喫茶店をまじめにするか、父が目指した地球の生成の研究をするか、考えがまとまらずにならべてみた。その結論が出ないことに苛立った。
しずか  夢は何処にでも転がっている。夢があるところをいくら探しても見つからない。夢のない所で夢を拾いなさい。それが本当の夢を見つける方法なのよ・・・私がなぜおまえを勘当された家に連れて帰って来たと思う。屋敷と財産はあっても夢がなかった。それを探すために大学へ行く、留学もし、海外派遣にもでた、だけど何か心に残るものはなかったのよ。そんな時、納戸にある機織り機が浮かんだの。作ろう、生きた証しを織ることで伝えようと思ったの。この文化の無い街に伝えられ寂れた倉敷織りを復活させよう、それを夢にしようと思って両親に頭を下げて許しを乞い、見様見真似で始めたの。教えを乞うために奔走した、その時夢を食べていると言う実感を持ったの
               間
しずか  なにもないところから夢を生みおとす、それが本当の夢物語なのよ
私があなたのお父さんに惚れたのは、四億五千万年前にたどり着こうとしている夢をみっていたことなの。あの人は真剣にその夢を追っていた。こんな人がいるのと呆れていたら惚れていた。お金儲ける事も食べることも、本当に不器用な人で夢を追う事だけが頭にあった。生活するうちに夢を見ることの素晴らしさを教えられていたの。あの人に比べたらほんの小さな夢だけど、これが精いっぱいの私が見つけた夢なの。私はあなたになにも指図はせずに好きにさせたのはきっとその事で考えると思ったから。生きることの意味を感じ見つけようとするときにきっと気がつくと思ってね。色々と迷う事は堕落ではないわ、それは寧ろ成長の過程なのだと言う事を感じ取らせかったのよ。なんでもやってみなさい、転びなさい、転んだらまた起き上がればいい、人生には常に再生と言うチャンスはあるものなのよ」
                間
しずか  人を愛すると人間は臆病になるわ、それは守りに入るからなの。自分の夢の限界を知るからなのよ。其の人と同じ夢を見ようとするからなのよ。夫婦が同じ夢を見る事は無いわ、いくら愛し合っていても眠って同じ夢なんか見られないと同じように。よく結婚式の祝辞で花嫁に花婿のお袋の味のみそ汁を作るようにと言うけれど、あれは嘘、妻の味を夫に押し付ける、それが愛と言う事。それと同じで違った夢を二人が持って生きていくことが本当の愛を持った夫婦だと言う事がわかるものなの。それを認め合うのが結婚なのよ
               間
しずか  人は愛することで臆病になる、または、勇気が生まれる、さあどっちだ
悠介独白   頭の中は言葉の洪水のように渦巻いていた。私には、父と母と私と三人で銀杏を見に行った時に、寡黙な父が言った言葉
 『美しい』が脳裏に広がっていた。その答えを知るためにあの銀杏を見に行こうと車を走らせた。
 暗闇の中の銀杏は私を見下ろすように感じたが優しく抱え込んでくれた。
 暗闇の中に私は限りない勇気を与えられていた。
                   敏則の独白が明りの下で始まる。
 敏則の独白  私の脚本を私が初監督をしたのは、私が住んでいた社宅を出てアパート借り早苗と暮らし始めてしばらくたってからだった。
 早苗は精神を落ち着かせ元の明るさを取り戻していた。まだ結婚式は行っていなかった、作品が完成したら式を挙げることにしていた。
作品の題名は「銀杏繁れる木の下で」、私と早苗の物語であった。オープンセットの中でひときわ大きくそびえるのは銀杏の巨木だった。その下でともに成長する青春ドラマだった。セットはロケハンして大元駅を作り銀杏を植えた。今の銀杏を持ってくる事は出来ず、年代をさかのぼっての大きさを植えたのだった。私のイメージで大道具と美術に指示して作ったものであった。役者には自由に演じさせた。演技を極力させなかった。其の個々の役者の姿を撮った。絵コンテも描かなかった。監督椅子に座ってじっと見つめていた。早苗と会った時を思い出しながら見ていた。
完成したものは大ヒットとはならなかったが評論家はほめてくれた。
早苗と結婚したのは完成後の試写会が終わり挨拶を済ませて次の日だった。質素、身内だけのこじんまりとしたものだった。大元駅の銀杏と長門の浜の銀杏に会いに行くことが新婚旅行になった。
それから青春ものの映画を何本か監督をした。子供の佳苗が生まれたのは結婚して二年目だった。ちょうど時期を同じくして私と映画の主演を演じた女優とのスキャンダルが報じられた。この手のやらせは偏に観客動員のための宣伝なのであったが、早苗は信じてしまった。
いくらなにもない、あれは会社がうその話を作り雑誌に売り込んだものだと言っても聞き入れなかった。
早苗に大きな負担を感じさせる結果となり、生まれた子供の面倒も見られず放置すると言うところまで病んでいった。明るい反面考え込む性格を知って注意をしていたのだが、優しく接したり、いたわりの言葉は私が何かを隠すためのものとして受け止めるようになっていった。早苗の母が付き添ってくれていた。精神科へ通院しても心の病で薬を調合されるだけだった。
早苗は私を拒否するがなだれ込むように縋りついて泣いた。
そんな状態が何年か過ぎて行くなか、私が監督をしていては精神的に心を壊し、自分を責める早苗を思った。泣きながら縋りついてくる早苗を抱いて眠った。
実家に返っても症状はよくならなかった。私と離れたことがより症状を亢進させることになっていた。
私は決断しなくてはならなかった。監督と言う仕事をしていたら早苗は救えない。
早苗  信じなかったわけではないの、だけど、不安だった。其の思いで自分を追い詰めていた。敏君に準備が出来ていると誘っても抱いてくれなかった、だから余計に悩んだ。愛してないのだと思い毎晩泣いていた。楽しかった思い出を浮かべてなお涙があふれた。・・・ごめん、私の愛が足らなかった、敏君の言葉を信じる愛が薄れていた。そのために毎日毎日手紙を書いた。写真を抱いて寝た。もう駄目、毎日一緒にいたい。あの頃毎日会いたくて邪魔をしていた。・・・来てよかった、やはり敏君の顔が毎日見たい。話したい。・・・行って来い、と見かねた父が切符をくれたの…
 その言葉が浮かんでいた。
 愛と言うものは常に寛容をもたらすものではなく、愛するが故に不安と恐怖をもたらすのだ。
 早苗は私が映画監督になる事を本当に許してくれていたのか、人間の心を切り裂くものを作らなくてはならない時に平静ではおられない事を知っていたのだ。それに恐怖していたのではないのか。
早苗  私は機関士の妻でもいいのに
 この言葉こそが早苗の本心であったのか。
 背伸びをしてついて来ようとして心が壊れかけている。
早苗  私は壊れる
 そう言った時になぜ気がつかなったのか、私は自分を攻めた。
早苗  そんなに私の事を愛してくれるのならなぜ私を抱いてくれないの、何でそんなに優しいの・・・もうあの約束は私が破る、もう、私の生理がもたない。私を愛しているなら壊れる前に助けて
敏則  僕は早苗が大切だから汚したくなかった。だが、それが早苗には負担になっていた事を今思う。早苗にそこまで言わせた責任は僕にある。国鉄マンはお客さんを安全に目的地に運ぶために石炭を釜に投げ入れる、早苗と僕のレールはこれから二人の幸せのために敷かれている、脱線は絶対してはならない、それが国鉄マンの家族の思いだと思っている
早苗  敏君が成長しているのに、なぜ私は立ち止まっていたの。もう離れたくない、一緒に暮らして私の手を引いて育ててください
 あの時のやりとりが、今を予見していたことになぜ気が付かなかったのか。私の野望に付き合わせて苦しめた、
 私は銀杏に誓った、
「早苗を守り幸せにする」この言葉は真実のものではなかったのか、あの尋ねてきた時になぜ気がつかなかったのか」
 長門の夕景を見つめて叫んだ心をなぜもっと見つめなかったのか。
早苗  この夕日は敏則と早苗のものだ
 早苗の心を見たときに、もっと二人の幸せの場所を探そうとしなかったのか。
 早苗をこのような状態にしたのはこの私だ。幼い頃から知り尽くしていたはずではなかったのか、明るく振る舞っておどけていた心をなぜ理解しなかったのか。
 私は映画会社を辞めて大学の映画科の講師になる事にした。
テレビと言う娯楽の媒体が映画を凌駕していくことが分かったのも辞めるきっかけだったのかも知れないそこには・・・。
佳苗を育てながら、早苗の精神を安定させるためのものだったが、回復には時間がかかった。毎晩、抱いて寝ていた。やせ細っていたからだが少しずつ膨らみを持つようになるまでそれを続けた。
恢復の兆しが見えてから、二人の銀杏を見に行って、
「荘厳で、鎮魂で、長寿」をねがった。
銀杏は二人の人生のなかにあって精神の主軸となり支えになっていた。早苗が元気になっていくなかで取り戻していったのは、生きると言う意味、誰かが必要としてくれる限りか生きると言う事だった。 
早苗  敏君が愛してくれたから、私はその倍愛することにした
 その貌と声は、銀杏を赤く染めて沈んでいく夕日に向かって叫んだ。
早苗  え、今早苗と言った・・・、あの夕陽は敏則と早苗のものだ
 あの時に戻っていた。
 平凡な家庭のなかで生きて、娘を慈しみ育てる日々が過ぎて行った。 
佳苗を嫁に出し、二人の生活は元に戻った。

これは私の記録である。生きる場所や時間の違いに気が付いたら、それを変えればいい。だが、愛すると言う事は愛されている人にとっては苦しみの場に変わることもある、愛することと愛される事は同義語である。
早苗と私の愛はまさにそれであった。
早苗を愛したことに喜びを感じている。いい人生であったと納得し満足をしている。
映画世界からの逃避についてもよかったと思っている。大学で映画青年たちと学びあったことも楽しい記憶が残っている。
『生きて愛して死んでゆく』
それが本来の人間の姿なのかもしれないと感じている。
 娘の佳苗にとっては不慮の事故で夫を亡くしたが、娘を愛し育てることで其の悲しみはいやされる事を願っている。
                敏則は長椅子のところに移動、明りがそこへ、曲が流れてその中で淡々と読み上げる。
「マイ・ウェイ」の音楽が流れている。
  私のマイ・ウェイ
 思い返せば 色々なことがあった
 どんな時にも 夢は手放さなかった
 恋して、笑い ないたこともあった
 今はもうわすれたけれど 強くなったと思えた
 自分のしたことを思い出すと 恥ずかしくて言えないが
 立ち止まっている時じゃないと
 何時も、私のやり方で 道を開いた
 躓いて倒れても ひたすらあるいた
 自分の道を生きて来た

 今振り返り 後悔はしない
 どんなときにも愛は 忘れなかった
 出会って 愛して 育てたものに
 今でもそれに支えられ 生きた日々を振り返る
 自分のいたらなさのせいで 人を傷つけてないか
 立ち止まっている時じゃないと
その事が、少し気になる 事もある
 立ち止まっている時じゃないと
誰でも自由な心で暮らそう
 自分の道を生きていくために・・・

 銀杏が出会いをつくり、ともに育った、二人の愛を見ていてくれたことに感謝して…・
 初めて銀杏に会った時に一枚の葉を貰ったがそれはおし葉にして今でも書斎の本のなかに挟まれている
                                    木田敏則 早苗
舞台中央の明りの下で
悠介の独白  幾花の祖父が書いた自分史を読み終わった。夢を捨ててまで一人の女性を愛すると言う夢を選択していることに驚きを感じた。がそれはなぜかすがすがしいものとして心のなかにとどまった。男して生まれ人を愛する勇気と責任を見せられたことに今まで持っていなかった愛と言う概念を持った。
 銀杏とともに映る一人の老人は何かの祈りをしているようにも見えた。其の祈りは二人の出会いを偶然と奇跡によって作ってくれた感謝の祈りだと確信した。
 自分もこのように人を愛し、その愛を夢にまで高めることが出来るのだろうかと思った。
しずかの声  人は錯覚をして恋に落ち、それで愛を誤解して結婚をする。人間の歴史はその繰り返しなの
 母が言った言葉は、照れが言わせたものなのだ。つまり逆説なのだ。真実の裏返しなのだ。
 母が言いたかったのは真理の真髄、恋と愛を崇高なものなのだと言いたかったのだ。
しずかの声  人が生きると言う事は、一人一人の心のなかにある大切な種から芽を出すものを育てること、それには夢と言う肥やしがいるの
しずかの声  女は愛することで勇気をもらい、男は愛することで臆病になる
この言葉も女によって創られてきた人間の歴史を証明している言葉なのだ。
「美しい」
父がいったその短い言葉のなかには、生きとしいけるものが常に持っていなくてはならない、穏やかさと慈愛から生まれたものであることを教えられた。
私はこの一週間、考える事がこんなに楽しいものなのかを会得していた。
コーヒーの味を奥深いものとして飲むことが出来た。こころに余裕が生まれるのを感じていた。
                 明りがテーブルのところに変わる
しずか  遊んできちゃった、たまにはいいか。結果報告をします、幾花さんはあなたと結婚することを喜んで承諾、家族の皆さんもそれを歓迎、みなさんは東京を離れてこの家で一緒に暮らすことになる。何か文句がありますか、私はあなたの親なの、あなたの気持が幾花さんを欲しがっている事はすぐに直感できたの。何か反論はありますか、あなたの心に沿っていなかったら言ってちょうだい
悠介  あなたに勝とうとも逆らおうとも思った事はありません
しずか  なにを悟った様な事を言って・・・結婚なんか言ってみれば博打と一緒、丁と出るか半と出るか分からないから面白いのよ。だけど言っておく、この地球上には何十億と言う男と女が住んでいる、そのなかで出会って結婚する、恋をして戸惑い、愛して生きている事を実感する、これは偶然の奇跡ではなく、四億五千年前から続いた歴史のほんの悪戯なのよ。だけどそれをみんな信じたいから結婚する、なぜと聞くならそれが動物の本能としておきましょう。本能に逆らう事は絶滅を意味しています。はい、賛成なら盛大なる拍手をお願い致します
悠介   親父もたいへんだったことでしょうね
しずか  それだけは言わないで、私は運命論者ではない、何が起こるかそれは私が決めるってこと…
悠介  私の事も決めてしまったと言う事ですか
しずか  ごめんね。何か出しゃばって、またやってしまった。あなたのお父さんの生き方に呆れていて恋をして、一途さを愛して、勘当され、あんたが生まれた、それは勘違いから生まれた私の歴史なのよ
               サット行きかけて振り返り
 しずか  ああ、言うのを忘れていた、銀杏は安産祈願も受け付けているって・・・

               明りが落ち、銀杏だけが照らし出されるなか、ホリゾントに夕景が
               映える
幕が下りてくる
   






想いとして・・・。
戯曲 「銀杏繁れる木の下で」この作品は六十歳で書く事を辞めていたが、十何年かぶりに書くことになった。今田が原作を書き吉馴が脚色をした。書いていて、若い頃の事を思いだしていた。浅草のストリップ小屋の喜劇役者の方方に舞台の面白さを教えられ、新橋演舞場では、新派の北条秀司先生、台本を書いておられた池波正太郎先生に教えていただいたこと、また、岡山県下の多くの文学を志していた人たちとの交流の事、特に『新日本文学賞』を受賞したが断らせた大江壮さん、「女流文学賞」をとりながら作家になにらなかった梅内女史の事は心に残っている。小説を書いていた私を倉敷で演劇の世界に引っ張り込んでくれた、倉敷演劇研究会の土倉一馬さん、とその仲間たちから沢山の思い出を頂いた事。未熟な台本を公演してくれた事。それらは走馬灯のをように心の中で再現されていた。若かったころの夢物語である。
後に日本一の演出家、鈴木忠志さんにも手を差し伸べていただき、全国の演劇人たちと「財団法人舞台芸術財団演劇人会議」を立ち上げる一役を担い、鈴木メソッド演劇の真髄を魅せられた。映画の世界では表現社の篠田正浩監督、鯉渕優さん、永井正夫さんらのプロデュウサー、岩下志麻さん他たくんさんの俳優さんと何作も仕事が出来たことも記憶を新たにした。それらの人との関わりで多くの思い出を貰った。そんなことを考えていたら書き上がっていた。子供たちと青年たちに支えられながら劇団滑稽座は存在した。子供達も育ち青年たちも成長していった。それも心に残る残照がある。私の我儘といたらなさのために傷を与えていたとしたらお詫びをするしかない。この作品は銀杏と言う自然の総体に対して人間の心の動きを追ってみた。私は無神論者で運命論者ではないが、何か不思議なものに導かれていると感じている。がむしゃらに走り抜けたが、年を経て気づくことが多い。この作品を手を差し伸べてくださった人達と支えてくれた人達、私と出会った総ての人達に捧げたい。不遜であるが…。                                      
吉馴   悠                              

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